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糖尿病性腎症との違いもわかる!糖尿病性腎臓病(DKD)の特徴と治療について

 2020/11/15 生活習慣病
この記事は約 11 分で読めます。 2,309 Views

「糖尿病と診断されたが、血糖値に気を付けるだけで大丈夫?」

「人工透析治療に移行しないためには、どんな検査を受ければいい?」

「アルブミン尿はなぜ出る?尿検査だけで腎臓の状態がわかるの?」などの疑問をお持ちの方もいるでしょう。

糖尿病の方にとって合併症を起こしやすい腎臓の状態は非常に気になるところですよね。

これまで典型的とされてきた糖尿病性腎症(DK)だけでなく、最近はもっと広範囲の糖尿病性腎臓病(DKD)という考え方があります。

糖尿病性腎臓病(DKD)とはどのような概念で、治療や生活において何かこれまでと異なる注意事項があるのでしょうか。

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糖尿病性腎臓病(DKD)の基本

糖尿病性腎臓病(DKD)とは

人工透析治療の最大原因となる「糖尿病性腎臓病(DKD)」とは、糖尿病が原因で起こる腎臓病の総称です。

血糖値が高い状態が続くと血管の内皮細胞に負担がかかります。

高血糖は全身の血管を傷つけますが、特に細い血管が深刻なダメージを受けてしまうのです。

腎臓は血液中の老廃物や塩分をろ過して尿として排出し、きれいな血液を体に戻す機能があります。

このろ過機能を担う「糸球体」はとても細い血管が集まった組織です。

糸球体が左右の腎臓の合計で約200万個もあることからも、いかに細い血管の集まりであるかイメージできるでしょう。

この糸球体が壊れることで腎臓のろ過機能が低下し、本来は体の中に戻さなければならない「アルブミン」や「タンパク」が尿細管に漏れ出てしまう状況を、これまで「糖尿病性腎症」と呼んできました。

糖尿病性腎症の診断のポイントはアルブミン尿の有無とされていましたが、最近になって糖尿病が原因で起こる腎臓病のなかに「アルブミン尿が出ないタイプ」が目立ってきたのです。

いずれも糖尿病が原因であることは間違いないため、アルブミン尿があるタイプとアルブミン尿はなくても腎臓の機能不全が起きているタイプを併せて「糖尿病性腎臓病(DKD)」と呼ぶようになりました。

糖尿病性腎臓病(DKD)のしくみ

アルブミン尿があるタイプの糖尿病性腎臓病(DKD)は、腎臓の糸球体が壊れることで起こるものです。

血糖値が高いと糸球体の入り口に向かう血管(輸入細動脈)は拡張、出口につながる血管(輸出細動脈)は収縮します。

血液がどんどん流れ込むのにもかかわらず出口がふさがっているため、糸球体の血管内皮細胞に高い圧力がかかり、糸球体が壊れてしまうのです。

その結果、血液中に含まれるたんぱくであるアルブミンが尿細管に漏れ出てしまいます。

腎臓は細い血管が集まる臓器であるため動脈硬化の影響を受けやすい臓器です。

動脈硬化が腎臓の血管全体に生じることで腎臓の機能も低下してしまいます。

アルブミン尿がないタイプの糖尿病性腎臓病(DKD)では腎臓全体がまんべんなく機能低下を起こし、糸球体が壊れず機能低下していくためアルブミンは尿中に漏れ出ません。

現在はこのアルブミン尿が出ない動脈硬化タイプが多くなっています。

糖尿病や高血圧・脂質異常症などの治療技術が進み、血糖値や血圧・LDLコレステロール値などのコントロールが良くなっていることで糸球体の健全性が保たれるようになりました。

そして、加齢とともに動脈硬化を原因とした腎臓全体の機能不全が、先に生じるようになったのではないかといわれています。

糖尿病性腎臓病(DKD)は新しい概念

これまでは、高血糖により糸球体の入り口に向かう輸入細動脈の血管が拡張し、出口につながる輸出細動脈の血管が収縮することで糸球体内の血圧が高くなり障害を起こすと考えられていました。

しかし最近の疫学研究では、アルブミン尿やタンパク尿が出ていないのに腎機能が低下する糖尿病が増えていることが指摘されています。

これは腎細動脈の動脈硬化や硝子化による「腎硬化症」が原因と考えられているのです。

腎硬化症では腎臓への血流量が減ることで糸球体や尿細管を養う十分な血液が行き届かず、壊死を起こしてしまいます。

腎硬化症は糖尿病だけでなく動脈硬化を起こす病態すべてが関連しており、高血圧・高尿酸血・喫煙などあらゆる生活習慣病や加齢もリスク因子となります。

糸球体の障害によってアルブミン尿やタンパク尿が出る「糖尿病性腎症」に、糖尿病による微細動脈硬化が起きて腎臓が硬くなる「腎硬化症」を加えた病態をまとめて「糖尿病性腎臓病(DKD)」としました。

糖尿病性腎臓病(DKD)と腎合併症の多様化

糖尿病性腎症の典型例は、初期の糸球体過剰ろ過から、アルブミン尿、タンパク尿の陽性を経て腎機能が徐々に低下し、人工透析治療に至るというものです。

しかし糖尿病治療の向上と患者の高齢化により、典型的な糖尿病性腎症は少なくなり腎硬化症のような腎合併症が多様化しています。

腎硬化症で人工透析治療をする人は糖尿病性腎症に比べて少ないものの、20年前の2倍に増えています。

また、新規透析導入患者の原因疾患の第1位は糖尿病による腎障害であることに変わりはありません。

なかには尿検査では正常~微量アルブミン尿の段階なのに、腎臓の働きを示すeGFRが顕著に低下してくるケースもあり、その病態は多様です。

糖尿病性腎臓病(DKD)は多様化する糖尿病によると思われる腎機能の異常の総称であり、病名ではありません。

典型的な糖尿病性腎症(DN)が糖尿病性腎臓病(DKD)の大部分を占めています。

また、腎硬化症などの動脈硬化性腎疾患だけでなく慢性糸球体腎炎や脂質関連腎症・肥満関連腎症なども、糖尿病を併発している場合には糖尿病性腎臓病(DKD)に含まれるのです。

いずれにしても、アルブミン尿やeGFRなどの腎機能の検査を綿密に受け、糖尿病の治療をしながら腎臓の経過も観察してもらうことが糖尿病患者にとって腎臓の合併症を防ぐために重要なことです。

糖尿病性腎臓病(DKD)の検査

糖尿病性腎臓病(DKD)では、適切な経過観察を行わないと腎機能の急激な低下を見逃してしまいます。

腎機能低下の初期は自覚症状がほとんどないため、早期発見のためには定期的な検査が欠かせません。

糖尿病がある人はアルブミン尿を調べる尿検査と腎臓の働きを見るeGFR値を調べるための血液検査を、数か月おきに受ける必要があります。

尿検査の結果、アルブミン尿がプラスになった場合には「アルブミン尿タイプ」の糖尿病性腎臓病(DKD)が疑われるでしょう。

eGFRは「推算糸球体濾過量」のことです。

腎機能が低下すると体にたまる老廃物のひとつ「クレアチニン」の値や、年齢、性別などから、腎臓がどのくらい働いているかの割合を換算します。

eGFRの値が60未満の場合はアルブミン尿がなくとも糖尿病性腎臓病(DKD)の疑いとして、精密検査や経過観察・治療を続けていきます。

クレアチニン値は40~74歳の人が対象となる特定検診にも含まれていますが、糖尿病のある方は主治医に相談のうえ定期的に腎臓の詳しい検査を受けるようにしてください。

 

糖尿病性腎臓病(DKD)と糖尿病性腎症(DN)の違い

糖尿病性腎症(DN)は、糖尿病性腎臓病(DKD)の概念に含まれます。

高齢化に伴い糖尿病性腎臓病(DKD)のなかの糖尿病性腎症(DN)の割合が減りつつあるのです。

糖尿病性腎症(DN)は腎症前期から透析療法が必要になる時期までを5段階に分け、アルブミン尿と腎機能の状態からどの段階にあるかを推測します。

糖尿病の発症から20年程度で蛋白尿が顕性化し、ネフローゼ状態となり、さらに2年程度で急激に腎機能が悪化して透析治療に至ります。

典型的な例としては20~30代で2型糖尿病を発症し、40~50歳代で透析療法が必要になります。

一方、糖尿病性腎臓病(DKD)の動脈硬化によるタイプは腎機能障害の進行が比較的緩やかであり、透析導入は高齢になってからです。

そのため高血圧や脂質異常症などの生活習慣病も合併していることが多く、腎臓だけでなく心臓や脳・四肢の末梢血管など全身の動脈硬化の症状もみられます。

細動脈硬化が進んでいるにもかかわらず糸球体内病変が少なく、アルブミン尿が確認できない場合もあるのが特徴です。

 

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糖尿病性腎臓病(DKD)の治療

すでに糖尿病性腎臓病(DKD)がある場合は、血糖コントロールの他に血圧・コレステロール・中性脂肪などの値、体重など生活習慣病の原因となる状況を総合的に改善していく必要があります。

具体的な数値はHbA1c7.0%未満、血圧130/80㎜Hg未満、LDLコレステロール120㎎/dl未満、HDLコレステロール40㎎/dl以上、中性脂肪150㎎/dl未満に保ち、体格を表す指数BMIを22前後に維持することが大切です。

ただし高齢者の場合は血糖値や血圧を下げすぎると、起立性低血圧による立ちくらみや脱水による急性腎障害のリスクが上がります。

高齢者の基準はやや緩く、HbA1c8.0%未満、血圧140/80㎜Hg未満、場合によっては150/90㎜Hg未満とされています。

糖尿病性腎症(DN)だけでなく糖尿病性腎臓病(DKD)においても、血糖値を含めた総合的なコントロールをおこなうことは動脈硬化を防ぎ心筋梗塞や脳梗塞のリスクを低減させます。

同時に糖尿病で合併症を起こしやすい、目や腎臓などの細動脈血管障害の進行も予防することが可能です。

総合的なコントロールをするために薬による治療がおこなわれることもありますが、食生活の改善や適度な運動・禁煙などの生活習慣の見直しが必要となります。

糖尿病性腎症(DN)の場合の第一選択薬は、ACE阻害薬、ARBなどのレニン・アンジオテンシン系阻害薬です。

これらの薬は血圧を下げる薬として知られていますが、糸球体の出口につながる輸出細動脈の血管を広げることで糸球体内圧を下げて糸球体が破壊されるのを防ぎ、タンパクが尿中に浸み出るのを抑えて腎臓を保護する働きがあるのが特徴です。

ただし「動脈硬化タイプ」の糖尿病性腎臓病(DKD)の場合には、急激な血圧の低下で急性腎障害などが起こる恐れがあります。

そのため血液検査でeGFRをチェックし、腎機能の低下が見られた場合にはカルシウム拮抗薬などの降圧剤に変更することもあります。

糖尿病性腎臓病(DKD)の治療では血糖値と同じくらい血圧のコントロールが重要となります。

血圧は環境や気持ちの影響を受けやすいため、家庭でも血圧を測って記録しておくとよいでしょう。

受診の際に、記録した血圧の情報を医師に伝えると治療に役立ちます。

 

糖尿病性腎臓病(DKD)の生活のポイント

朝の過ごし方

朝起きたらまずトイレを済ませ血圧を測って記録します。

腎臓の異常は尿に現れますので、トイレでは尿の状態を忘れずに観察してください。

血圧は変動の少ない朝と寝る前に測ると比較しやすく診療の参考となります。

糖尿病の人が高血圧になると糖尿病合併症のリスクが高まりますから、早期発見のためにできるだけ毎日測りましょう。

朝食の前後の薬がある場合には忘れずに服用できるよう食卓や洗面所の目立つ場所に置くとよいでしょう。

食後の運動習慣

血糖値のコントロールのための運動は血糖値が高くなる食後1時間前後が最適です。

しかし糖尿病や高血圧などがあると、毎日の体調にも変動があります。

毎日同じ量の運動をすることにこだわらず、体調や天候に合わせて運動の内容や量の調整をおこなうとよいでしょう。

運動中や終了時には足腰の痛みや体調の変化がないか確認します。

筋トレやウォーキングなどをおこなった場合には、整理体操で使った筋肉をしっかり伸ばすことで足腰の故障を防ぐことが可能です。

夜・就寝前の過ごし方

入浴の際には全身に変化がないかをよく観察します。

糖尿病が進むと感覚が鈍くなりやすいので、マッサージをしながら足の指や裏に傷がないか確認しましょう。

傷に気付かず、いつの間にか化膿してしまうことがあるので注意が必要です。

就寝の支度ができたら夜の血圧を測って記録します。

こたつやソファなどでのうたた寝や睡眠不足は血糖値や血圧の値に悪影響を及ぼすこともあるため、しっかり横になりリラックスできる環境でゆっくり休みましょう。

糖尿病性腎臓病(DKD)を悪化させないための目標

糖尿病性腎臓病(DKD)を悪化させないための目標には、「生活習慣の改善などの行動の目標」と「血糖値を含む検査値の目標」があります。

糖尿病性腎臓病(DKD)の治療のためには血糖値だけでなく総合的なコントロールが必要なので、まずは自分自身の体の状態を把握しましょう。

毎日体重や血圧を測り、体に痛みがないか、尿の状態に変化はないか、活動量がいつもより多いか少ないか、疲れすぎていないか、睡眠時間は十分とれているかなどをしっかり意識することが大切です。

また、医師任せにせず自分自身の検査値もしっかり把握しておきましょう。

身体の状態と検査値をしっかり把握することで主治医に体調を正確に伝えられるようになるため、治療に役立ちます。

さらに体調や検査結果に合わせて自然に行動の目標が定められるようになるため、検査値の改善も期待できます。

また、喫煙は糖尿病合併症の発症や進行を促す危険因子です。

心血管疾患の発症リスクも高めてしまうので、禁煙をするよう心がけましょう。

 

まとめ

糖尿病による腎機能の異常は多様化しており、典型的な糖尿病性腎症(DN)を含めたより広い概念として糖尿病性腎臓病(DKD)という括りができました。

いずれにしても医療機関で定期的に経過観察をおこないつつ、生活習慣を改善しながら血糖値以外にも血圧・コレステロール・体重などをしっかりコントロールすることが非常に大切です。

高齢になってから透析治療に至る場合も少なくないため、自分自身の体の状態をしっかり把握してください。

そして、糖尿病性腎臓病(DKD)を悪化させないための取り組みをおこないましょう。

 

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薮内直純

薮内直純

株式会社イコールヒューマン。生活習慣病専門ライター。医療や医薬品に関する誤解を解き明かしながら、真実を追求した記事を提供中。

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