2010年から糖尿病診断の基準に追加された「ヘモグロビンA1c」の正体
健康診査で実施される糖尿病の血液検査には2つの種類があります。
1つは、空腹時血糖、随時血糖などとも表現される血糖値です。
血糖値は血液中の糖分の値を測っているということはすぐにわかりますが、もう1つの糖尿病の検査、ヘモグロビンA1cとはどんな値を見ているのでしょうか?
ヘモグロビンは赤血球のことですが、Aと1とcについては名前からだけでは全くイメージがわかないと思います。
今回はこのヘモグロビンA1cについて詳しく説明します。
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Contents
「ヘモグロビンA1c」の歴史と正体
ヘモグロビンA1cとはどのようなものかを知るために、まずは歴史から紐解いてみましょう。
■ヘモグロビンA1cの歴史
今から一世紀も前の1921年、フランスのメイラードが「糖」と「アミノ酸」が結合する化学反応を発見しました。
この発見で、ヘモグロビンA1cの基本的な仕組みである「体の中の糖分が赤血球(ヘモグロビン)のアミノ酸に結合する」ということが説明できるのです。
その後「糖尿病患者にはヘモグロビン異常があることがある」と分かり、高血糖だとヘモグロビンと結合する成分を「A1c」と名付けました。
そして1977年、ヘモグロビンA1cが血糖コントロールの状況を評価するための指標になる可能性があることが示されました。
しかし、まだまだ実用化にはほど遠く、糖尿病の詳しい検査は糖尿病の疑いのある人に多量のブドウ糖を摂取させて血糖値の変動でその処理能力を見る「糖負荷試験」が一般的になっていきました。
メイラードの発見から90年後の2010年、アメリカの糖尿病学会がヘモグロビンA1cを本格的に糖尿病の診断に使うことを発表し、ようやく日本でも健康診査でヘモグロビンA1cが使われるようになったのです。
■ヘモグロビンA1cの正体
健康診査の項目を見ると、「ヘモグロビン」という項目があります。
ヘモグロビンは赤血球の中で全身に酸素を運ぶ大事な役割があり、貧血の検査項目になっています。
このヘモグロビンを構成するアミノ酸はブドウ糖と結合しやすい性質を持っています。
そして、ブドウ糖がくっついたヘモグロビンを「ヘモグロビンA1c」といいます。
一度ヘモグロビンA1cになれば糖がヘモグロビンから離れることはないため、赤血球が壊れて入れ替わるまでの約4か月間に血糖値がどのような状態だったかを見ることができるのです。
つまり、高血糖の状態が続けば続くほどヘモグロビンとブドウ糖が多く結合し、ブドウ糖がくっついたヘモグロビン、すなわち「ヘモグロビンA1c」がどんどん増えていくことになります。
糖尿病の検査のヘモグロビンA1cの値は血液中のヘモグロビン全体の何パーセントがヘモグロビンA1cになっているかを計算して示しています。
「血糖値」は常に変化していますが、「ヘモグロビンA1c」の検査値は検査する前数か月間の血糖値の状態を教えてくれます。
つまりヘモグロビンA1cは、検査までの数か月間の血糖コントロールがうまくいっていたかどうかのバロメーターとなり、糖尿病の早期発見や既に糖尿病になってしまった人の重症化予防に役立つのです。
「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」の違い
ヘモグロビンA1cはブドウ糖と結合した赤血球であることはわかりました。
では、ヘモグロビンA1cは血糖値と関係があるのでしょうか。
■「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」の違い
ここで、血糖値とヘモグロビンA1cの違いを整理しておきましょう。
血糖値は検査をした時の血液に含まれるブドウ糖の濃度です。
直前の食事内容に検査の値が大きく影響されるため、食事を摂った時間によって「空腹時血糖」と「随時血糖」に分けられています。
「空腹時血糖」と「随時血糖」はそれぞれ基準値も異なります。
空腹時血糖は健康な人であれば比較的検査値が安定していますが、随時血糖は変動が激しい値です。
血糖値は糖分や炭水化物などを摂ってしばらくすると急激に上がります。
そして食後には血糖値を下げるためのホルモン「インスリン」も分泌されるため、わずか数時間の間に大きく変化するのです。
糖負荷試験では血糖値のこの性質を利用して、多量のブドウ糖を飲ませて血糖値の変動でインスリンの処理能力を見ています。
また、血糖コントロールについて学んでいる患者さんが自分で血糖を測ることができる機器を渡されて、1日に何度か血糖を測定し記録を付けることもあります。
血糖値の値と生活記録を見比べて血糖値の変動と生活習慣の関連について話し合ったりもします。
これに対してヘモグロビンA1cは直前の食事に左右されず、「過去数カ月における血糖値の平均を推測」できる検査です。
短い期間で何回検査をしてもあまり変わりませんので、医療機関で数か月に1回の検査を行うだけで十分でしょう。
学校でいえば、血糖値が「抜き打ちテスト」や「定期テスト」で、ヘモグロビンA1cは「通知表」なのです。
血糖コントロールの細かい弱点を見つけ微調整するためには「テスト」である血糖値が役に立ちますし、血糖コントロール全体を評価するためには「通知表」であるヘモグロビンA1cが役に立つのです。
血糖値とヘモグロビンA1c、それぞれの特徴を知ることで検査の結果をより有効に血糖コントロールに役立てていくことができるのです。
■「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」は値の下がり方が異なる
血糖値とヘモグロビンA1cはどちらも糖尿病が疑われるかどうかを見るための検査ですが、血糖値とヘモグロビンA1cの値の下がり方はかなり違います。
血糖値は採血した時点の血液中の糖の濃度を調べるものなので、検査前数日間だけ糖分の少ない食事をすれば下げることができます。
同じように血糖値を上げることも簡単で、検査の1時間ほど前に甘いジュースをたっぷり飲めばてきめんに上がります。
一方、ヘモグロビンA1cは検査前数日だけ飲食を控えても下がりません。
また検査前日に食べ過ぎたり飲みすぎたりしてもさほど上がりません。
「抜き打ちテスト」の血糖値が一夜漬けでもよい点を取れるのに比べ、ヘモグロビンA1cという「通知表」は検査直前の付け焼刃ではどうすることもできないのです。
ヘモグロビンA1cの値を下げるためには、血糖値が良くコントロールされた状態を数カ月続けることが必要です。
数か月の努力でようやく下がる値なのです。
つまり、血糖値を上げない食事と血糖値を下げる運動を数か月にわたってコツコツと続けていかなければならないということです。
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糖尿病のヘモグロビンA1cの基準値とほかに疑われる病気
ヘモグロビンA1cの基準値はどのくらいなのでしょうか。また、どのくらいの値になると、糖尿病の疑いがあるのでしょうか。
■糖尿病のヘモグロビンA1cの基準値
「糖尿病」と診断されるのはどんな時でしょう?
糖尿病はいくつかの症状と検査値をもとに診断するため、診断のもとになる検査値を「糖尿病型」と表現しています。
血糖値で糖尿病型と言われる状態の1つ目は、10時間以上何も食べないで測定した早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上の場合です。
2つ目は、食事時間にかかわらず血糖値が200mg/dL以上の場合、3つ目は糖負荷試験、75gブドウ糖の入った液体を飲んで2時間後採血して血糖値が200mg/dL以上の場合です。
そして4つめはヘモグロビンA1cが6.5%以上の場合です。
これら4つのうちの1つでも該当する場合は糖尿病である可能性がありますが、1つだけではまだ糖尿病とは診断できません。
それではどんなふうに診断するのでしょうか?
まず、「はげしくのどが渇く」、「トイレ(尿)が近い」、「体がだるい、疲れやすい」、「たくさん食べているのにやせていく」などの糖尿病特有の自覚症状や、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病腎症などの合併症がある場合には、糖尿病型の検査値が1つでもあれば糖尿病と診断されます。
次に、血糖値での糖尿病型とヘモグロビンA1cの糖尿病型それぞれが、別々にでも糖尿病型であることが確認されると糖尿病と診断されます。
血糖値が糖尿病型で自覚症状や合併症もない場合やヘモグロビンA1cだけが糖尿病型の場合は他の病気の可能性もあるので「糖尿病の疑い」として、3~6か月後に再度血糖値とヘモグロビンA1cの検査を行います。
■ヘモグロビンA1cの数値の計算方法
ヘモグロビンA1cは、血液中のヘモグロビン全体の何パーセントがヘモグロビンA1cになっているかを示しています。
血液1デシリットル中の「ヘモグロビンA1cの量」を「ヘモグロビン全体の量」で割って100を掛けて計算されます。
つまり「ヘモグロビンA1cの量」÷「ヘモグロビン全体の量」×100、という計算式になります。
ヘモグロビンA1cの基準値は国際的に5.6%未満と定められています。
5.6~6.0%未満は正常高値で再検査や糖負荷試験をすることもあります。
6.0~6.5%未満は糖負荷試験を受けることを強く勧められ、6.5%以上で糖尿病型と判断されます。
また、既に糖尿病になってしまった人は糖尿病性の合併症を起こさないために、糖尿病発症早期からヘモグロビンA1c 7%未満を維持することが大切です。
■糖尿病のほかに疑われる病気
糖尿病以外でヘモグロビンA1cが高くなる原因としてはホルモンの異常や腎不全、薬の副作用などが考えられます。
また、溶血性貧血などヘモグロビンA1cが著しく低くなる病気もあります。
ヘモグロビンA1cの値の下げ方
血糖コントロールの通知表「ヘモグロビンA1c」を下げるにはどうしたらいいのでしょうか。
血糖値が高い状態が続けば続くほどヘモグロビンとブドウ糖がたくさん結合し、ブドウ糖がくっついたヘモグロビンがどんどん増えていくことになります。
要するに血液中にブドウ糖がたくさんある時間をなるべく短くすればいいのです。
ここでは具体的に実際にはどんな習慣をやめなければならないのか、どんな生活習慣を身につければよいのかそのポイントについてご紹介します。
■ヘモグロビンA1cを高めてしまう生活習慣
「いつも、おなかいっぱいまで食べる」「甘いものやごはん、パン、めん類などの炭水化物が好き」「休憩するたびに甘い飲み物を飲む」「休日は家でごろごろしている」そんな生活習慣に心当たりはありますか?
このような生活を続けていると体の中では血糖値が高い状態、つまり血液中のブドウ糖がいつでもたくさんある状態になっています。
これではブドウ糖とヘモグロビンA1cがいつでもくっついている状態になってしまいます。
■ヘモグロビンA1cを下げるには
どんな生活を送ればちょうどよい血糖値を維持し、ヘモグロビンA1cを増やさないようにすることができるのでしょうか?
ポイントは次の5つです。
・3食しっかり食べる
・しっかり眠り、適度な休息とストレスの発散をする
・一度にたくさん食べすぎない、ダラダラ食べ続けない
・甘い飲み物を飲まない
・こまめに体を動かす
まず3食しっかり食べることが重要です。
特に朝食は体の中のホルモン分泌のリズムを整える要になりますので抜かないようにしてください。
「食べなければ血糖値は下がるのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
人類は食料がなく飢えをしのぐという歴史が長かったので、人の体の中には「糖を合成するためのホルモン」が何種類もあるのです。
食事を抜き空腹のまま活動していると体が危機を感じ、糖を合成するホルモンが分泌され血糖値が上がってしまいます。
また、強いストレスや過度な疲れでも同様な反応が起きてしまいますので、規則的な食事と共に十分な睡眠と適度な休息、ストレス発散をすることも大切です。
次に、甘い飲み物を飲まない、一度にたくさん食べすぎないことです。
体の中に糖分が入ると血糖値を下げる唯一のホルモン「インスリン」が分泌されますが、たくさん食べるとその分糖を取り込むための時間が長くなります。
常にインスリンを働かせ続けていると「耐糖能異常」の状態になり、血糖値が高くてもインスリンが分泌されにくくなったり、インスリン自体の働きが悪くなったりしてしまうのです。
同じ理由でダラダラと食べ続けることも止めましょう。
最後は、こまめに体を動かすことです。
体を動かすことで血液中のブドウ糖を消費することができます。
さらに運動はインスリンの分泌や働きもよくしてくれるのです。
なにも食後に筋トレをする必要はありません。
食後、積極的にキビキビと後片付けをしたり気晴らしに歩いたりする程度の活動で十分です。
間違っても食後すぐに横にならないようにしましょう。
まとめ
ヘモグロビンA1cを糖尿病の検査に使うようなったのはここ十数年間のことです。
それまでは血糖コントロールがうまくいっているかどうかを評価するのは簡単ではありませんでした。
血糖コントロールが悪い状態、つまり血糖値が高い時間が長く続くことは動脈硬化など血管へ悪い影響を与えます。
ヘモグロビンA1cをしっかり理解して「糖尿病にならない生活習慣」「糖尿病を悪化させない、糖尿病性合併症を防ぐ生活習慣」のバロメーターとして活用していきましょう。
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