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膵がんの予後は極めて悪い

「がんの王様」と呼ばれるがんがあるのをご存知でしょうか。

医学が発達した現在においても術後生存率の向上や早期発見が難しい、とても恐ろしいがん、それが「膵がん(膵臓がん)」です。

ここでは膵がんの種類や特徴、原因や治療法について詳しく解説します。

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膵がんは「がんの王様」

がんには、胃がんや肺がん、大腸がんなど様々なものがあります。

これらのがんも恐ろしいものですが、早期発見が出来れば治すことも可能です。

ですが、医学が発達した現在においても術後生存率の向上や早期発見が難しい、とても恐ろしいがんがあります。

それが、「膵がん(膵臓がん)」です。

膵がんが「がんの王様」と呼ばれているのは、とても厄介な特徴を持っているからです。

その一つが、病状の進行がとても早い、という事です。

膵臓は、血糖値をコントロールする働きのあるインスリンというホルモンを分泌する臓器としてよく知られていますが、膵臓の長さは15~18cm、横幅は約3~5㎝、厚さは2cm程度しかありません。

ちょうど、たらこ程度の大きさで、オタマジャクシのような形をしています。

膵臓は、他の臓器と比べると、小さい臓器なのです。

膵臓はとても小さい臓器のため、他の臓器よりも進行が早くなりやすい傾向にあります。

そのうえ、膵臓はインスリンを分泌するだけでなく、炭水化物や脂肪、タンパク質を分解する膵液を一日に1.5リットルも分泌したり、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンを分泌したりと、とても活発に活動しています。

その働きの分だけ細胞も元気なので、がん細胞化した時の進行速度もとても早くなってしまうのです。

また、膵がんには自覚症状が出にくいという特徴もあります。

「沈黙の臓器」というと肝臓を思い浮かべる人が多いと思いますが、膵臓も肝臓と並んで病気の症状が出にくく、なかなか目立った症状が出てこない臓器なのです。

黄疸や体重の減少といった自覚症状が現れる頃には、既に進行してしまっていて、他の臓器に転移してしまっていることも少なくありません。

さらに、膵がんは厄介な事に発見が難しい、という特徴もあります。

他の場合は、正常な細胞とがん細胞がはっきりと分かるように広がっていきますが、膵がんのがん細胞は正常な細胞の中に紛れ込むように広がっていくのです。

そのうえ、膵臓は体の奥の方にあるため、細胞を採取して検査を行う事も容易ではありません。

膵がんは、このように発見が難しく、そのうえ治療も難しい病気です。

全体での5年生存率は1割にも達していませんし、早期発見と言われるステージⅠであっても5年生存率は50%以下と非常に低いのです。

そのため、膵がんは「がんの王様」と呼ばれているのです。

 

膵がんは進行がとにかく早い

「がんの王様」と呼ばれている膵がんの厄介なところは、とにかくその進行が早い、という事です。

がんが成長する早さの事を「ダブリングタイム」と言いますが、このダブリングタイムが大腸がんの場合は大体半年単位なのですが、膵がんの場合は月単位になっています。

そのため、1年に1回の検診の時には何ともなかったのに、次の検診の時には膵がんがかなり進行してしまっていて、手術を行う事が出来ない状態になっていることも珍しくありません。

しかもその間、自覚症状がほとんどないため本当に早期発見が難しいのです。

その進行度合いによって、ステージ0~ステージⅣの5段階に分けられています。

膵がんの場合のステージ0は、膵管の上皮内に留まっている状態です。

ステージⅠだと、大きさが2cm以下で、膵臓の内部に留まっていてリンパ節への転移も見られません。

ステージⅡになると、大きさは2cm以下で、膵臓の内部に留まっている状態ですが、近くのリンパ節への転移が見られるか、リンパ節への転移はないけれど大きさが2㎝以上になってしまっている状態です。

ステージⅢでは、遠くのリンパ節にまで転移してしまっているか、リンパ節への転移は近くに限られているけれど、膵臓の少し外にまで出てしまっています。

末期と言われるステージⅣでは、膵臓の周りの主要な血管や臓器にまで進んでしまっているか、最も遠くのリンパ節や遠くの臓器に転移してしまっている状態です。

膵がんは、非常に進行が早いため、0~Ⅰ期で見つかる割合は非常に少なく、他の検査を受けた時に偶然見つかるか、たまたま膵臓に特化した検査を受けていた場合が多く、ほとんどの場合はⅢ期以降で発見されます。

治療法には、手術、化学療法、免疫療法、放射線療法の4つがありますが、根治をするためには手術を行う必要があります。

ですが、手術が出来るのは基本的にステージⅢ期までで、それ以上進行してしまっていると手術を行う事が出来ないのです。

膵がんの患者のうち、手術が出来る状態で発見されるのは、全体の約3分の1程度だと言われています。

残りの3分の2のうち、半分は肝臓や腹膜などにがんが転移してしまっている状態で、残りの半分は、転移はしていなくても進行し過ぎていて手術をする事が出来ない状態です。

おまけに、その進行の早さのために手術をしても5年生存率は10~15%ほどしかありません。

つまり、全体の3~5%程度しか根治に至らないのです。

 

再発率が高い膵がん

がんが恐れられている理由の一つに、「再発」があります。

手術によって体内から病巣を取り除いたと思っていても、がん細胞が完全に除去出来ていないと再発してしまう事があるのです。

がんは「細胞単位」で発生しますが、切除手術では細胞の集合体である「組織単位」でしか切除する事が出来ません。

そのため、がん細胞がわずかに残ってしまう場合があるのです。

そのがん細胞が再び成長して、がんが再発してしまいます。

また、外科手術に化学療法や放射線療法を組み合わせて、がん細胞をすべて消滅させる事に成功したとしても、がん細胞の発生原因となる細胞の遺伝子までは除去できないので、再発を完全に防ぐ事は出来ません。

そして、膵がんはその再発率が非常に高いがんとしても知られています。

膵臓には、インスリンやグルカゴンといったホルモンを分泌する働きがあります。

そして、その分泌されたホルモンは、血液の中に直接放出されるのです。

そのため、がん細胞まで血液の中に放出されてしまい、他の臓器にまでがん細胞を拡散させてしまいやすい、という性質があります。

ですから、手術で膵臓を除去したとしても、他の臓器にたどり着いたがん細胞がそこで成長し、増殖して再発を起こす可能性が高いのです。

膵がんの再発率は、何と約9割と言われています。

そして、再発後の余命は短いと3ヶ月、長くても1年前後しかありません。

ですから、膵がんの手術を行って治ったように思えても、その後の経過を見るために通院を続ける必要があるのです。

膵がんの再発は、ほとんどの場合別の臓器への転移を伴って発生します。

そのため、がん細胞の転移を防ぐために外科手術や化学療法、放射線療法の二つ以上を組み合わせた治療が必要になります。

特に、膵がんから肝臓への転移を防ぐ事で再発率を低くするために有効だと考えられているのが、「術後2-チャンネル化学療法」と呼ばれるものです。

これは、肝臓を通っている冠動脈と門脈に抗がん剤を投与するという治療方法で、今後の成果が期待されています。

 

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膵がんの種類と特徴

膵がんと一言で言われますが、その中にも「膵管がん」や「腺房細胞がん」、「すい神経内分泌腫瘍」などの種類があります。

そのうち約90%を占めるのが「膵管がん」です。

膵臓には、消化液の膵液を作る腺房、膵液を運ぶ膵管、インスリンやグルカゴンといったホルモンを分泌する内分泌腺という部分があります。

そのうち、膵管を形成する細胞ががん化したものが膵管がんです。

膵管がんは、60歳ごろから増加し、年齢が高くなるほど罹患率が高くなります。

男性の方が女性より死亡率が高く、女性の約1.7倍となっています。

膵がんの中でも膵管がんは非常に悪性度が高く、日本では毎年22,000人以上の人が膵がんで亡くなっており、日本や欧米先進諸国の間でも、主要ながん死因の一つです。

膵臓の内分泌腺(ランゲルハンス島)に発生するがんは、良性のものも含めて「すい神経内分泌腫瘍(NET)」と呼ばれます。

ホルモンを産生して特徴的な症状を示す機能性NETと、ホルモンを産生しない非機能性NETの二種類があります。

悪性度はそれぞれに違いますが、一般的に膵管がんよりも進行が緩やかで、以前は抗がん剤が効きにくいという問題点がありましたが、現在では分子標的治療薬という比較的効果の高い薬が開発されています。

膵液を作る腺房に発生する膵がんが「腺房細胞がん」です。

膵がんの中でも1~2%程度しか発生しない、比較的稀なタイプのがんです。

進行は緩やかで、疼痛や圧痛を持つ事もあります。

膵臓に出来る嚢胞性の腫瘍の一つに「膵管内乳頭粘液性腫瘍」というものがあります。

CT検査ではブドウの房のような外見をしており、内部に粘液を含んでいます。

悪性のものは全体の約30%で、外科切除で取り除く事が出来ます。

同じく嚢胞性腫瘍の一つとして、「粘液性嚢胞腫瘍」というものもあります。

こちらは胆のうから遠い膵臓のしっぽのような部分とも言える膵尾部に発生する事が多く、中年女性に多く見られるのが特徴です。

同じ嚢胞性の腫瘍ですが、膵管内乳頭粘液性腫瘍よりも悪性度が高く、原則として外科切除が必要です。

 

膵がんになる原因とは?

膵がんの直接的な原因はまだはっきりとは分かっていませんが、膵がんを発症させるリスクを高める因子については明らかになっています。

そのリスク因子は、大きく分けると「遺伝性のもの」、「自分が罹患している病気」、「生活習慣」の三つがあります。

膵がんの患者のうち、約3~9%の人は、親子や兄弟・姉妹などにも膵がんの人がいるそうです。

家族に膵がんの人がいると、膵がんになるリスクは1.6~3.4倍高くなる、と言われています。

さらに、親子や兄弟姉妹に二人以上膵がん患者がいる家系では、そのような家族がいない人よりも膵がんリスクがおよそ7倍も高くなる事が分かっています。

そのうえ、家系に50歳未満で膵がんを発症した人がいると、膵がんのリスクがさらに上がるとも言われていますから、近親者にこのような人がおられる場合は、自分も膵がんにならないために定期的に検査を受けておいた方がいいでしょう。

「糖尿病」は、膵臓がインスリンを正常に分泌する事が出来なくなったり、インスリンの働きが衰えたりする事で起こる病気ですが、膵がんになるリスクを高めてしまう事も分かっています。

糖尿病患者が膵がんになるリスクは、そうでない人に比べて約2倍高くなると言われているのです。

血縁者・親族に糖尿病の人がおらず、50歳以上で初めて糖尿病にかかった人の場合、膵がんが原因で糖尿病になった可能性もありますから、膵臓の検査も行った方が良いでしょう。

膵臓の炎症が繰り返されて正常な組織が破壊される事で繊維化し、硬くなっていく「慢性膵炎」の患者さんが膵がんになる確率は約4%とされていて、慢性膵炎でない人と比べると膵がんの発症リスクが約13倍も高いと言われています。

特に、慢性膵炎と診断されてから2年以内に膵がんが見つかる確率が高いため、慢性膵炎だと分かった場合は膵がんの可能性も念頭に置いて慎重な検査をする必要があります。

慢性膵炎になると食物の消化吸収がうまく出来なくなり、腹痛や背部痛が起こりますから、慢性膵炎自体も早く発見するようにしましょう。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は、良性のものもありますが、放置しておくと悪性度が高い膵管がんに発展する危険性も高くなります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断されたら、詳しい検査とその後の経過観察、適切な治療が必要になります。

膵がんの原因となる生活習慣としては、「喫煙」と「飲酒」が挙げられます。

喫煙者は、非喫煙者と比べると、膵がんになるリスクが1.3~3.9倍も高いと言われているのです。

膵がんの恐ろしいところは、禁煙してから10年以上が過ぎても膵がんのリスクがあまり下がらないところです。

ですが、吸い続けているといつまでもリスクが高いままですから、早めに禁煙することをお勧めします。

また、喫煙は糖尿病や肥満といった喫煙と関係のないリスク因子による膵がんの発症リスクも増加させると言われています。

適度な飲酒は問題ありませんが、大量にアルコールを摂取する人の場合は膵がんのリスクが1.2倍高くなると言われています。

また、大量にアルコールを摂取すると慢性膵炎になってしまう事もありますから、間接的に膵がんのリスクを高めると言う事も出来ます。

喫煙や大量の飲酒をする人は、定期的に検査を受けるようにしましょう。

 

まとめ

膵がん(膵臓がん)は、医学が発達した現在においても術後生存率の向上や早期発見が難しいがんです。

がんの進行が早く、転移・再発しやすいのは、膵臓という臓器の特徴や機能そのものが関係しています。

自覚症状もほとんどない、非常に厄介で恐ろしい病気です。

本文の内容を参考に、定期的に検査を受けるとともに、リスク因子(危険因子)には特に注意しましょう。

 

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木村 哲也

木村 哲也

株式会社イコールヒューマン代表取締役。生活習慣病の権威者である崇高クリニックの荒木裕院長と提携し、主に生活習慣病に関わる様々な情報を広く分かり易く提供中。

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