ゆっくり進行する「前立腺がん」は早期発見して治療しよう
前立腺がんは男性特有の病気でゆっくりと進行するのが特徴ですが、そのままにしておくと周囲の器官やリンパ節などに転移する可能性もあります。
前立腺は本人の生活の質に関わる重要な部分であり、切除となるとさまざまな機能障害が残ることも。
進行が遅いことを念頭に置きつつ、年齢や全身状態、社会的な状況を考慮し治療方針を決めることが大切です。
ここでは、日本でも増加傾向にある前立腺がんの病態や治療法、予防法などを詳しく解説します。
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日本人に増加している「前立腺がん」とは
前立腺がんは以前は日本人に少ないがんでした。
ところが近年前立腺がんの患者は国内で増加傾向にあり、ライフスタイルの変化や高齢化の影響が指摘されています。
また、臨床的な症状でがんを疑って受診するというよりは人間ドックや定期検診などで偶然見つかるというケースが増えているのが特徴です。
実際にがんによって死亡している人もおり油断できないがんでもあります。
ここでは具体的ながんの症状や日本で増加している背景を整理しておきましょう。
<「前立腺がん」とは>
前立腺がんとはその名の通り前立腺にできるがんのことです。
前立腺は解剖学的にみると直腸と恥骨の間にあります。
膀胱の出口付近で尿道を取り囲むように存在している器官です。
栗のような、くるみのような丸みを帯びた形になっています。
前立腺から出る分泌液(前立腺液)で精子の働きを助けたり、栄養を精子に供給したりするなど生殖機能をサポートする役割を担っているのです。
前立腺がんは早期発見で治癒も目指せる病気ですが、発見が遅くすでに病態が進行してしまっている場合、近くのリンパ節や骨へ転移をしたり肺や肝臓などに転移したりすることもあります。
骨へ転移してしまうと圧迫骨折を起こしやすく、生活の質の著しい低下を招いてしまうこともあるのです。
高齢化に伴い増加傾向にあるため決して他人事ではない病気でもあります。
また、早期では自覚症状に乏しく前立腺肥大症と症状が類似しており見極めが難しいという特徴もあるのです。
さらに治療をしても再発をすることがあり、画像診断や症状などがきっかけというよりは再び受けたPSA検査によってPSA値の上昇が分かり再発が見つかるケースが多いようです。
そのため治療後も定期的なフォローアップが必要となります。
日本において年々増加傾向にあり高齢化のほかにも生活習慣が関係していると考えられている、まさに現代におけるがんといってよいでしょう。
<気になる前立腺がんの症状>
前立腺がんは初期の段階では症状がない場合が多く、同時に存在する前立腺肥大症の症状が主な症状となります。
具体的には、排尿時に不快感や痛みを伴う排尿困難や頻尿などといった排尿に関する症状です。
また尿がすっきりと出た感じがない残尿感や尿漏れなどのほか、がんが進行すると血尿が出たり、がんが骨に転移したりすることによって痛みが出ることもあります。
前立腺肥大症による症状なのか、がんによる症状なのかは詳しい検査をしてみないと分からないのが特徴です。
ちなみに前立腺肥大症と前立腺がんは症状の見分けがつきにくいものの、それぞれ病態が全く異なります。
前立腺肥大症は「内線」という部分に良性の腫瘍ができ、腫瘍が尿道や膀胱を圧迫することによって排尿障害が出現するのです。
一方で前立腺がんの場合、「外線」といって辺縁領域に悪性腫瘍ができ、腫瘍が大きくなりがんが進行すると排尿障害が起きるようになります。
排尿に関する障害は日常生活に支障をきたすため、早期の治療が大切です。
<日本人に増加している前立腺がん>
前立腺がんの患者数は日本国内で増加傾向にあります。
1年間に罹患する数は人口10万人あたり117.9人です。
男性において胃がん、大腸がん、肺がんに次いで罹患率は第4位となっており、がん全体をみても上位にあることが分かります。
年齢で見ると60歳代から徐々に高齢になるにつれて罹患率が上昇しているのです。
国内で前立腺がんの人が増えている大きな理由としては、60歳以降で患者数が増加していることを見ても高齢化が背景にあるということが言えるでしょう。
また、もうひとつはPSA(前立腺特異抗原)検査の普及です。
採血の際にPSA値を測定することで前立腺がんの早期発見が容易になったということも患者数が増加している要因でしょう。
5年生存率は99%以上と非常に高い数値を示しており、治療で予後良好であることが分かります。
5年生存率は高いものの、実際に国立がん研究センターのデータによると前立腺がんで死亡している人は2018年で12,250人います。
この数は肺がんの52,401人、胃がんの28,843人などと比べると低いですが、白血病や悪性リンパ腫などの死亡数よりも高い数値です。
このように実際に死亡する人もおり、決して安心はできないでしょう。
検査で早期発見して早期に治療したい前立腺がん
前立腺がんは人間ドックや定期検診でのPSA検査によって容易にがんの存在を調べることができるようになりました。
PSA検査の普及ががんの早期発見につながっているといってよいでしょう。
PSA検査だけでは前立腺がんであると断言することはできず、その後精密検査によって詳しく病態をチェックすることとなります。
精密検査にもさまざまな種類があり、それぞれで得られる情報も異なるのです。
また、治療は手術のほかに放射線療法や化学療法など転移の有無や進行度、本人の意志など総合的に加味し適切な方法を選択していくことが重要となります。
<前立腺がんの検査>
前立腺がんは人間ドッグや健診などでのPSA検査がきっかけとなるケースが多いです。
PSAとは前立腺特異抗原という前立腺で生成されるタンパク質のことで、PSA値の上昇は前立腺組織が破壊されていることを意味します。
つまり正常な細胞ががん細胞によって破壊されている、がんの存在を疑う所見であるということです。
このPSA検査で数値が高ければ直腸診、精密検査へと進んでいきます。
・直腸診
肛門から指を挿入し、前立腺表面の硬さやしこりの有無を確認します。
前立腺はもともと弾力がありますが、がん化するとまるで石を触っているかのように硬いです。
また前立腺はくるみほどのサイズですが、肥大している場合には鶏の卵程度の大きさになっており大きさの確認も行います。
このように直腸診では客観的なデータだけでは得られない情報を把握することが可能です。
・MRI検査
MRI検査では前立腺を輪切りにした断面画像で組織の状態を確認できます。
MRI検査で確定診断をすることはできないものの、生検の実施したほうがよいかどうかを見極めるための重要な検査です。
・前立腺針生検
MRI検査で前立腺がんの可能性が高いと考えられる場合は前立腺針生検を実施します。
この検査はがんの確定診断を行える検査で、針生検で前立腺の組織を採取し顕微鏡で詳細に組織の様子を調べます。
具体的には麻酔した状態で肛門から超音波装置で前立腺の状態を確認しながら、細い針を組織に刺していくのです。
<状況により異なる前立腺がんの治療>
前立腺がんの治療法は前立腺がんの病態、年齢、本人の意志などを考慮し、慎重に決定していくことが大切です。
・手術
初期段階のがんでは根治を目的として前立腺摘出を行います。
また切除後には残った膀胱と尿道を繋ぎ合わせ、がんの状況によっては前立腺のわきにある勃起に関係する神経を切断することもあるのです。
神経を切断してしまうと術後にED(勃起障害)を発症してしまいます。
また前立腺を切除することで尿失禁を起こしやすく、回復までに3~6ヶ月ほどの期間を必要とする場合が多いです。
リンパ節郭清術も行った場合には、リンパの流れが悪くなることで下半身がむくんでしまうことがあります。
・放射線療法
放射線療法は前立腺を摘出することなく手術と同様の治療効果が期待できる方法です。
体外照射と組織内照射とに分かれ、組織内照射はさらに小線源永久挿入療法と高線量率組織内照射とに分けられます。
体外照射では前立腺に向かって体外から高エネルギーの放射線を当て治療を行うものです。
治療に伴う副作用はあるものの、前立腺を摘出するわけではないのでEDや尿失禁などで悩む心配はないでしょう。
・内分泌療法
前立腺がんは精巣で作られる男性ホルモンのテストステロンが大きく関与していることが分かっています。
そのため、テストステロンの分泌を減少させることによって前立腺がんの進行を防ぐのが内分泌療法です。
この治療法によって骨量の減少から骨粗鬆症のリスクが高まります。
前立腺がんは骨髄や脊椎、大腿骨、肋骨などへの骨転移が見られ、圧迫骨折などによって生活に支障をきたすことも。
そのため、内分泌療法と同時に骨密度を補う薬剤の使用を行うなどして骨に対する治療も行います。
・化学療法
内分泌療法が有効でない症例や効果が認められない場合に化学療法が選択されます。
抗がん剤の使用によって脱毛や手足のしびれ、食欲不振などといった副作用が見られることもあるのです。
<生活を考えた治療方法の検討が大切>
前立腺がんで手術となり前立腺を切除すると、ED(勃起障害)や尿失禁など生活の質に影響する機能障害という新たな悩みが生じることも。
例えば比較的若い年齢で初期の前立腺がんが見つかり、手術適応だったとしても本人が子供の誕生を望んでいる場合などを含め、本人の希望によってすぐに治療をせず経過を見るという選択をする場合があります。
また、高齢の場合には治療をしないことが寿命に影響しないと判断された場合、無治療で経過を見ることもあるのです。
仮に高齢で治療をするとなると、体力的な問題や尿失禁など術後の機能回復に時間がかかってしまう可能性も考えられます。
このように術後のことを考えた場合に、治療をしないほうが本人のためによいと判断できる場合もあるのです。
このように前立腺がんの治療では本人の生活の質を考慮し、慎重に検討していくことが重要です。
治療をしない場合でも、定期的な検査などで経過を注意深く観察していくことが求められます。
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知っておきたい前立腺がんの原因と予防
がんの原因を知ることで具体的な予防行動を知り実践することにつながります。
前立腺がんの背景としては高齢化によるものもありますが、ライフスタイルの変化が関係しているとの見方もあるのです。
つまり、これまでの生活習慣を客観的に見つめなおし改善して行動変容ができれば、前立腺がんを予防できることにつながります。
また、いかにがんを早期に発見できるかどうかも治療法や予後を左右するポイントです。
転移する前に発見できれば負担も少なくて済むでしょう。
<前立腺がんの原因>
・肥満
肥満は前立腺がんの原因のひとつとして考えられています。
老化した細胞が体内に増えていくとSASPという現象が起こり、インターロイキン6(IL-6)やプラスミノーゲン・アクティベータ―1(Pal-1)といったタンパク質が作られるのです。
これらの物質は肥満の人で血中レベルが高いことが特徴で、発がんを促進する作用を持っています。
細胞老化のメカニズムですが、肥満の人の場合、細胞分裂が繰り返され組織が大きくなっていく過程で細胞自体が傷ついてしまうことがあります。
そうすると細胞分裂が一旦ストップしてしまうことになりかねません。
傷ついた細胞は細胞自体が老化することでがんになるのを防いでいると考えられています。
そして、老化した細胞の増加はSASP現象を引き起こすという仕組みになっているのです。
・喫煙
喫煙も前立腺がんの危険因子です。
喫煙は前立腺がん以外にも、さまざまながんの危険因子であることが分かっています。
たばこには発がん性を持つ物質が実に70種類も含まれており、口で吸うことによって物質が血管を通り各臓器へと運ばれるのです。
血管は全身に張り巡らされているわけですから、体のさまざまな箇所にがんが発生する可能性があります。
また受動喫煙の場合も要注意です。
たばこを吸う人が吐く煙にも発がん性物質が含まれています。
この物質はDNA配列にダメージを与えてしまうことから、細胞のがん化に関与していると考えられているのです。
<前立腺がんを予防しよう>
前立腺がんは5年生存率が高くゆっくりと進行するがんではありますが、実際に死亡している人も少なからずいるという事実があります。
日本でも年々増加している前立腺がん。
生活においてどのようなことに気をつけるとよいのか詳しくみていきましょう。
・食生活を見直す
肥満が前立腺がんの危険因子であるため肥満を防ぐための食生活が大切です。
科学的根拠に基づき提示された「日本人のためのがん予防法」でも、バランスのよい食事ががんの予防に効果的であるとされています。
肥満を防ぐうえで効果的なのは糖質を制限することです。
ごはんやパンなどの炭水化物を避けつつも必要なタンパク質などはしっかりと肉や魚、豆類などから摂取し、栄養が偏らないようバランスのよい食事を心がけましょう。
・禁煙
さまざまながんの危険因子であるたばこを断つことが、がんの予防に効果的です。
たばこを近くに置かないような環境づくりはもちろん、確実に禁煙するために禁煙外来を設けている病院やクリニックに通うのもよいでしょう。
・定期的な検診を受ける
50歳を過ぎたら年に一度の前立腺がん検診を受けることが推奨されています。
前立腺がんの可能性を調べるのにまず行われるのがPSA値の測定です。
血液検査で測定が可能ですので定期的に検診を受け、がんの早期発見につなげることが重要でしょう。
また、人間ドックなどでオプションとしてPSA値の測定を付けることもできるので相談してみるとよいでしょう。
まとめ
前立腺がんは男性特有のがんであり、50歳を過ぎ60歳ころから増え始めます。
日本で年々増えており中には実際に亡くなっている人もいるので油断はできません。
また、前立腺を治療で切除するとなると生活の質の低下を招く恐れがあり、病態がゆっくりと進行していくという特徴からすぐには治療をせず経過を見る場合や高齢者の場合には治療をしない選択をすることもあります。
しかし、生活習慣の改善によって予防が期待でき、これまでの食生活や喫煙の習慣を見直すことが重要です。
最近では採血で測定できるPSA検査の広まりで簡単に前立腺がんの可能性を調べることができるので、定期的な検診を受けるということも大切になります。
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