咽頭がんの治療と手術後の発声法について解説
突然ですが、「咽頭がん」と聞くとどのようなイメージを持つでしょうか。
咽頭がんは胃がんや大腸がんなど他の臓器に発症するがんと比較すると発生率は高くなく、あまりなじみのある病気ではありません。
しかし、中咽頭がんと呼ばれるがんは年々増加傾向にあり、高齢者だけでなく20代以降の若い人での発症もみられています。
また咽頭は声帯といって発声にかかわる部位はもちろん、呼吸や嚥下など私たちが生きていくのに欠かせない重要な機能が備わっています。
ここでは、年々増加傾向にある咽頭がんの原因や症状、治療法、咽頭を切除した後の具体的な発声の練習やリハビリ内容などについて詳しくご紹介します。
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Contents
咽頭がんの基本情報
<咽頭がんとは>
咽頭がんとは、鼻や口、あご、耳、のどなど頭頸部と呼ばれる部位に発症するがん(頭頸部がん)のひとつです。
咽頭がんは発生する部位によって名称が分かれており、それぞれ「上咽頭がん」、「中咽頭がん」、「下咽頭がん」に区分されます。
3つそれぞれに原因や症状、発症年齢の特徴が異なります。
・上咽頭がん
上咽頭とは鼻の奥の部位を指し、早期発見がなかなか難しい部位でもあります。
そのため発見された場合には既に頸部リンパ節に転移している場合も多いのが特徴です。
症状としては鼻閉や滲出性中耳炎などで、悪化すると脳神経症状が出現することもあります。
・中咽頭がん
中咽頭がんは近年増加傾向にあり、原因によって高齢者だけでなく若い人にも発症するがんです。
のどの腫れとして自覚することが多く、のどの違和感や飲み込みにくさなどといった症状が特徴的です。
進行すると口が開きにくい、舌を動かしづらいなどといった症状がでる場合もあります。
・下咽頭がん
下咽頭がんは統計的に60歳代以上の男性に多いがんです。
解剖学的にみても食道に近く、食道がんもともに発症していることも少なくありません。
初期にはのどの違和感としての自覚があり、進行すると嗄声や咽頭痛、血痰、嚥下障害などがみられる場合もあります。
そもそも頭頸部がんの発症は全体のがんの5%ほどの発症と他の臓器のがんと比較し、割合は低いです。
しかし、近年は中咽頭がんの患者数が増加傾向にあるというデータも存在し、特に高齢者に発症しやすいがんとして認識されています。
<咽頭がんの原因>
咽頭がんの原因は発症部位によって異なります。
・上咽頭がん
上咽頭がんの多くは「EBウイルス」の感染によるものであることが分かっています。
EBウイルスというのは成人の95%が感染するウイルスとされており身近にいるウイルスなのですが、一部の人ではがんの発症に関与することが知られています。
通常は風邪などの症状で治ることが多いウイルスです。
・中咽頭がん
中咽頭がんでは、たばこや飲酒といった他のがんの原因としても一般的な嗜好・生活習慣のほかに、注目されているのがHPV(ヒトパピローマウイルス)による感染です。
HPV感染による中咽頭がんは若い人に多く、また放射線治療の効果が発揮されやすいので予後は比較的良好です。
一方で、たばこや飲酒などといったことが原因として起こる中咽頭がんは高齢者に多く、予後は不良です。
このように同じ中咽頭がんでも原因によって予後が大きく変わります。
・下咽頭がん
下咽頭がんの主な原因もたばこや喫煙です。
咽頭がんの診断と治療
<咽頭がんの診断>
咽頭がんは発症部位によって診断内容が異なります。
それぞれに共通して、レントゲンやCT、MRIなどの検査を駆使して病変の広がりをチェックしていきます。
このほかに実施される検査については以下の通りです。
ちなみに咽頭がんは病期を0~Ⅳ期に分類し、病変の広がりを判断します。
リンパ節への転移や他の臓器への浸潤の程度などによって区分されています。
・上咽頭がん
EBウイルスに関連した抗体価を調べることによりウイルスの存在の可能性を調べます。
CTやMRI、レントゲン検査で特に頭蓋底への進行度をチェックしていきます。
また、上咽頭がんは発見時に遠隔転移していることが多いため、シンチ検査も実施。
エコー検査でリンパ節転移についても調べ、総合的な判断が行われます。
・中咽頭がん
まず視診と触診でのどの腫れの有無や程度を確認します。
各種画像診断のほかに、中咽頭がんでは食道がんを発症しているケースもあり、消化器内視鏡検査によってがんの有無や程度をチェックします。
・下咽頭がん
下咽頭がんでは上部消化管透視検査といってバリウムを飲み撮影を行う検査が有用です。
この検査で食道がんなどの有無を調べます。
その他に各種画像診断と消化器内視鏡検査などの検査結果を踏まえ、総合的に判断されます。
<咽頭がんの治療>
咽頭の機能が損なわれてしまうと日常生活に大きな支障をきたします。
そのため治療ではいかに侵襲を最小限に抑え、残存機能を温存するかということを念頭に治療方針を決定していきます。
また、全身状態や年齢、職業などさまざまな要素を総合して治療内容を決めることとなります。
ここではそれぞれの部位のがんにおけるおおまかな治療法について整理していきたいと思います。
・上咽頭がん
上咽頭がんでは放射線治療と化学療法を組み合わせたスタイルが一般的です。
まずは手術ということはほとんどなく、頸部リンパ節の残存病変を除去する目的で頸部郭清術を行います。
上咽頭がんは抗がん剤による効果が明瞭です。
放射線療法では照射部位の炎症反応や食欲不振、口渇感、味覚障害などといった副作用に注意します。
化学療法では白血球減少など骨髄抑制による感染のリスクや口内炎、脱毛などといった副作用に注意する必要があります。
・中咽頭がん
早期の段階では部分的な切除術か放射線治療を選択し、進行した段階では放射線治療、化学療法、手術を組み合わせて行います。
手術では扁桃腺の切除のほか、舌の一部を除去、場合によっては喉を合わせて切除することもあります。
頸部リンパ節の病変に対して頸部郭清術を行います。
・下咽頭がん
下咽頭がんでは食道がんなどを発症していることが多く、他の部位のがんがある場合は合わせて手術で除去します。
喉頭を切除した場合には声帯で声を出すことができなくなり、今まで耳にしていた自分の声というのが聞けなくなるため、精神的にもショックが大きな処置となります。
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咽頭がんの手術後の発声法
咽頭を摘出してしまうと声帯から声を発することができなくなってしまいます。
しかし、一生涯声を出すことができなくなるというわけではありません。
訓練やリハビリを実施することで別の方法での発声が可能になります。
食道発声とは
声を発するというこれまで当たり前にしてきたことができなくなるというのはショックの大きいことです。
もう声を出すことができないと絶望感を感じてしまう人もいるでしょう。
しかし、声帯からだけではなく声は別のところからも出すことができます。
その方法のひとつが「食道発声」です。
食道発声はげっぷをするときのようなイメージで吸った空気を体内で逆流させて声を出す方法です。
この時に食道入り口の粘膜部のヒダが声門の役割を果たします。
機器などを使うわけではないため、見た目の変化もなく経済的負担も少ない方法です。
電気式の人工喉頭と比較すると、発声方法を習得できるまでに時間を要し年齢や肺活量なども習得期間に影響を与えます。
声は音量が小さく低く短いのが特徴で、時には相手に聞こえづらいこともあります。
ただ、繰り返しの練習によって習得ができると、風邪を引いたときのような声くらいの声質で比較的自然な声に近づくことができます。
人工喉頭のように手が塞がることもなく、普段と変わらないスタイルで会話ができるというのがメリットです。
具体的には腹部に力を入れ空気を腹部から出すタイミングをいかに習得できるかというのがポイントになり、地道な努力によって習得に近づくことができます。
食道発声の練習方法として一般的なのが「お茶のみ法」です。
お茶が喉を通過したタイミングで腹筋に力を入れ、空気を出すことで声を発することができます。
電動式人工喉頭(電気喉頭)とは
電動式人工喉頭は機械を顎の下に当て、先端の振動版を震わせることによって電子音を出し、それが口腔内に響いて音声として出すことのできるものになります。
食道発声と比較して人工的で単調な音声しか出すことができないため、イントネーションをつけて話すということが難しく、感情を声で表しにくいというのが特徴です。
また、機械を使用する際には片手を自由に使うことができない、定期的な充電が必要などといったデメリットがあります。
外出の際にうっかり忘れてしまうことや機械が故障してしまうといった可能性もあります。
しかし、腹筋の力を必要とする食道発声法と比較しても筋力や肺活量が少ない人、高齢者の方なども疲れずに簡単に方法をマスターできるというのがメリットです。
食道発声法でなかなかうまく発声できないという人、早く発声法を習得したいという人にもおすすめの方法となっています。
早い人ですと術後1ヶ月ほどから練習を開始することができます。
電気喉頭は日進月歩で、現代技術を駆使しできるだけ使いやすくより自然な声を出せるものを生み出すための改良が進んでいます。
また購入する場合高価なものとはなりますが、喉頭全摘出している場合、身体障がい者3級の認定を受け自治体から費用の補助を受けることが可能です。
シャント発声法とは
シャント発声法とは、気管と食道の間にシリコン性のチューブを挿入して、嚥下とは別に空気の通り道を作り、この通り道を利用した発声方法です。
具体的には、息を吐く際に永久気管口を指や人工物(ボイスプロステーシス)で塞ぐことで、空気を食道に上げ食道内側の壁を振動させて声を出します。
食道発声法と同じ仕組みで声を出せるのが特徴です。
ただ食道発声法と異なるのは、術後早期から発声が可能だということと、長い発声や大きな声を出す、声に抑揚を付けるといったことも可能になることです。
そのため相手と目を合わさなくても会話ができ、テレビなど他の音がある環境下での会話も可能になります。
デメリットとしては指で塞ぐ場合には片手が塞がってしまうこと、チューブを清潔に保つための定期的な交換や手入れが必要になることです。
チューブの交換は外来で行うことが可能となっています。
ちなみに、声を出すたびに指で永久気管口をふさぐ必要のない「ボイスプロステーシス」を使用することが一般的になっており、QOL(生活の質)の向上に大きく貢献しています。
咽頭がんのリハビリと療養生活
<発声以外のリハビリテーション>
喉は呼吸や嚥下など重要な機能を担っている部分であり、治療後は代用発声以外にもリハビリテーションが必要となります。
・嚥下訓練
間接嚥下訓練といって、口や舌のマッサージを行うなど、まず食べ物を用いない基礎的な訓練を実施します。
経口摂取が開始となってからは柔らかい食べ物を少しずつ摂取し、むせずに食べることができるかをチェックしながら食事形態を徐々に変更していきます。
・頸部リンパ節郭清術後のリハビリテーション
頸部リンパ節郭清術後は副神経へダメージを与えるため僧帽筋の筋力低下や萎縮を招きます。
頸部の痛みやしびれなどの感覚障害、腕の上げにくさを自覚しやすく、日常生活の動作に支障をきたしてしまいます。
そのため肩周りのリラクゼーションを中心としたリハビリテーションが実施されます。
<手術後の療養生活の過ごし方>
嚥下や呼吸、発声など重要な役割を持つ喉頭を摘出することによって生活に支障をきたしやすくなります。
手術後は以下の注意点を押さえ、過ごせるようにできると良いでしょう。
・食事はゆっくりと。いろいろな食事形態に挑戦を
手術後は術前のようにスムーズに食事をとることがなかなか難しくなります。
軟らかいものが食べられるようになったら食事形態を見直し、徐々に固形物へも挑戦してみましょう。
軟らかいものばかりを食べ続けていると咀嚼機能の低下を招いてしまい、食べられるものも限られてしまいます。
ゆっくりとよく噛むことを心掛けることが大切です。
・積極的に話す機会を
代用発声法はコミュニケーションの場を多く持つことで技術が上達します。
家にこもり過ぎずできるだけいろいろな人と話す機会を持ちましょう。
代用発声法に取り組む人同士が集まる会へ参加するというのもおすすめです。
・永久気管口やボイスプロステーシスのメンテナンス
永久気管口やボイスプロステーシスは清潔に、なおかつ機能を損なわず使い続けるためにこまめなメンテナンスが重要です。
・身体障がい者申請を
喉頭全摘出を受けて身体障がい者申請で3級に認定されると、自治体により異なりますがさまざまな助成を受けることができます。
例えば電気喉頭の購入費用や交通費の運賃割引などです。
認定までには数ヶ月を要するため、手術前から手続きに関する準備をしておくと安心です。
・規則正しい生活を
術後も規則正しい生活を送り、活動と休息のバランスを図りながら生活を送ることで心身の健康維持につながります。
<手術後の経過観察>
咽頭がんも再発や転移のリスクがあります。
治療をして2年以内での再発が多く、1~2ヶ月に1度の頻度で治療後の2年間通院する必要があります。
5年間は継続して通院することが望ましいでしょう。
検査では頸部の視診や触診、内視鏡検査や必要であれば画像検査なども実施されます。
生活をしていて症状で気になることがあれば、受診時に相談するようにしましょう。
また永久気管口などの状態も確認し、3ヶ月に1度外来で交換を行うことも必要です。
まとめ
たばこやアルコールなどといった生活習慣の改善や感染対策の実践などは咽頭がんの予防に役立ちます。
また日ごろから規則正しい生活に気を付けつつ、免疫力を損なわないということも重要です。
喉の違和感や腫れなど、扁桃腺炎や風邪などといった症状と類似しているため分かりづらい場合もありますが、症状が悪化する場合などはできるだけ早く医療機関を受診し検査を受けることが大切です。
また咽頭周辺で手術を行い声帯を除去した場合にも、これまでご紹介したように練習やリハビリテーションによって声を出すことができるようになります。
退院後は定期的な外来通院による医療サポートを受けながら、積極的に話す機会を設けることや食事を楽しむということが術後の機能回復において重要です。
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