高齢者が「血圧が高い状態」で居続けることの危険性
高齢になってくると多くの人にとって気になるのが「血圧」ではないでしょうか。
一般的に高齢になるほど血圧値が上がりやすくなることはよく知られています。
「自分は多少血圧が高くても大丈夫」「これまで元気だったから血圧が高くても問題ない」と、高齢者が高い血圧をそのままにしておくのは危険です。
なぜなら高血圧は脳卒中や心筋梗塞などの病気を引き起こすきっかけになるからです。
今回は高齢者の血圧について、高血圧との付き合い方や生活上で気をつけるポイントなどを含めて解説します。
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高齢者の高血圧の特徴
高血圧性疾患を持つ患者数は高齢になるにつれて多くなります。
一般的に、血圧は起床後から日中は高くなり夜間になると徐々に血圧は低下していくものです。
就寝中の夜間になると血圧が最も低くなります。
通常の成人の場合、1日の血圧の動きはこのようになっています。
しかし高齢者の場合、血圧値の動きを調整する「自律神経」の働きが弱まっている、あるいは高血圧の誘因になる動脈硬化が進んでいることなどから通常みられる日内血圧変動が乱れてしまうことがあります。
実際に、本来夜間には低くなるべき血圧がなかなか低くならなかったり、起床時にいつも以上に高くなったりすることもあるのです。
なぜ高齢者になると血圧が高くなるのか、その理由を挙げてみましょう。
○血管の弾力低下で血流が悪くなるため、収縮期血圧(最高血圧)が上がる
年齢を経るにつれて血圧が高くなる原因としては、体の老化により血管の弾力が低下し血管を流れる血液の流れが悪くなることがまず考えられます。
とくに収縮期血圧である最高血圧(心臓が収縮して血液を全身に送り出すときの血圧)が高くなる傾向があります。
一般的に成人の高血圧の基準は収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上となっています。
しかし、高齢者の場合は最高血圧である収縮期血圧が高くなると同時に最低血圧の拡張期血圧との差が大きくなることが特徴として挙げられます。
○血圧は高いのに脳の血流が足りない
脳にも多くの血液が流れており脳機能を保っていますが脳は他の身体部位とは違い血圧の影響を受けません。
脳には常に一定の血液が循環するようになっています。
しかし、高齢になると脳の機能が低下するためこれまでと同じように脳に一定の血液量を循環させるには今まで以上の圧力(血圧)が必要になってきます。
高齢者はそのような生理的な脳の機能の低下があるため、血圧が高い傾向にあるからといって安易に降圧剤を使うことができません。
降圧剤を使用して血圧が下がると、脳の血管を流れる血液の量も減ってしまうことになるからです。
その結果、高齢者は脳の血流低下によって立ちくらみやめまい、最悪の状況だと脳梗塞を起こしてしまうことも起こりかねません。
○温度変化や体の水分不足に影響を受けやすい
血圧が高い高齢者の場合、室内・室外の温度変化や水分摂取量の不足などにより身体が影響を受けやすくなります。
高齢で体温調整機能が鈍る、体内の水分量が減少することなどにより、温度変化や水分不足によって血圧が容易に上昇・下降することで心臓や血管に大きな負担をもたらすことがあります。
そのような急な温度変化や水分不足により心筋梗塞や脳卒中を引き起こすこともあります。
○糖尿病を併発していることがある
糖尿病を発症している高齢者は高血圧になる確率が高まります。
糖尿病だと高血圧になりやすい理由としては、血糖が高いことで血液の浸透圧が高まり細胞内から水分が細胞外に出てくるため血液量が増えることが考えられます。
とくに肥満体型であることの多い2型糖尿病の人はインスリンの抵抗性があるため血管が広がりにくくなることから血圧が高くなりやすいという症状がみられます。
以上のように、高齢者には高齢者特有の血圧の変動があることを知っておくことが大切です。
高齢者に特徴的にみられる血圧の変動を把握し、普段から血圧が高い場合には1日の中でも血圧の大きな変化がないか注意することも血圧の変動を把握する上で必要といえるでしょう。
高齢者が高血圧のままでいることの危険性
それでは自覚症状のあるなしにかかわらず高齢者で高血圧状態が続いているとどうなるのでしょうか。
どのような危険性があるのかみていきましょう。
○動脈硬化を促進し脳出血や心筋梗塞を招く
高齢者の血圧が高い状態が続くと、血液が流れる血管に余分な力がかかり続けることになり血管の壁に負担がかかります。
その状態が続いてしまうと血管の壁が硬くなり動脈硬化が引き起こされます。
とくに細い血管のある脳内で動脈硬化が進行すると、血流の乱れから血の塊が生じやすくなり血栓が発生して詰まったり、血管が切れて脳出血になったりする可能性が高くなるのです。
さらに、心臓でも血圧が高いことにより心筋梗塞のリスクも高まります。
心筋梗塞とは、酸素と栄養を心臓に送る冠動脈の一部が詰まり冠動脈の先端までに血液が行かず心筋細胞が死んでしまう病気です。
高血圧は心臓にとって重要な冠動脈のつまりを誘発する恐れがあるのです。
○急な温度差が誘因となり脳卒中を引き起こしやすくなる
高齢者の高血圧状態が続いた場合、気温の変化が大きいと脳梗塞や脳出血の危険性が高まります。
とくに季節の変わり目など気温の差を体感するような場合には、その気温差に適応しようと体が急激に反応しようとします。
すると自律神経の乱れが生じて血圧の変動も起こりやすくなり血管にも負荷がかかるというわけです。
とくに普段から血圧が高い高齢者ほど、高血圧により血管にかかる負担が大きくなり血管が破れるなど脳卒中の誘因になってしまいます。
○急な運動やストレスも脳卒中に繋がる
高血圧である高齢者が急な運動をおこなうと脳卒中のリスクを高めます。
運動をすることによって身体に急激なストレスがかかり、自律神経系の乱れから運動中にさらに血圧が上昇して脳卒中に繋がることもあるのです。
さらに、運動のストレス以外にも心的ストレス反応の一つとして血圧を上昇させることがあり、その結果血栓を作りやすくさせ脳卒中を引き起こすこともあります。
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高齢者高血圧との付き合い方
高齢者は血圧が高くなりやすく高血圧のままでいると脳卒中や心筋梗塞などの循環器障害が生じやすくなることが分かりました。
では今後どのように高血圧と付き合っていけば良いのでしょうか。
○血圧はどの値で維持すればよいのか
高齢で高血圧である場合、血圧はどの程度までコントロールすべきなのでしょうか。
年代ごとにみていきましょう。
・65~74歳の高齢者
日本高血圧学会の高齢者高血圧診療ガイドラインによると、65~74歳では125/75mmHg未満を降圧目標とすることが推奨されています。
さらに140/90mmHg以上でかつ脳卒中や心筋梗塞などの病気の発症リスクが高い高齢者では、130-139/80-89mmHgの血圧を降圧薬の使用を始める基準としています。
・75歳以上の高齢者
自分で病院の外来に通院できるような健康な高齢者であれば、降圧薬の服用を開始するのは140/90mmHg以上とし、目標とする血圧を130/80mmHg未満と設定されています。
しかし糖尿病や脳卒中・心筋梗塞の病歴がある人、抗血栓薬を使用中の人では、医師の指示のもとより低い降圧目標(125/75mmHg未満)に設定することの提案もなされています。
・身体機能が低下して自力で病院の外来に通院ができない、または認知症を患っている高齢者
このような場合は、降圧目標や降圧剤服薬の開始の基準を設定できず個別の状況をもとに医師が状況に応じて判断するとしています。
高齢者の場合、高血圧だからといってむやみに血圧を下げることが必ずしも良いこととは限りません。
医師の指導を受けながら降圧目標を定めること、そして医師の判断で必要な場合には適切な薬を使うことが大切です。
高齢者の場合、最高血圧が多少高くても糖尿病や腎臓病などを併発していなければ降圧剤など内服治療は行わず、まずは日常生活活動の見直しを行うことが多いです。
なぜなら降圧剤などの内服薬を使用すると薬が効きすぎて、血圧が急に下がったり薬自体が体に効きにくかったりすることがよく見られるからです。
しかし、血圧が高いままでいると脳卒中や心筋梗塞などの誘因になります。
そのため最高血圧が高めの場合は、早めに受診をして医師の指示や生活指導にそって血圧を高める生活習慣の改善が必要になります。
生活の中で気を付けるべきポイント
高血圧傾向のある高齢者は日常のささいな気温や環境の変化や体調不良などがきっかけとなって血圧に変動をきたしやすくなります。
このような血圧の変動が脳卒中や心筋梗塞の原因にもなるため、急な血圧の変動がないような生活を心がけることが必要です。
ここでは血圧の高い高齢者が生活の中で気を付けるべきポイントについて解説します。
○過度なストレスを避ける
日常で感じるささいなストレスも蓄積すれば大きなストレスとなり得ます。
蓄積されたストレスも血圧を上げる原因になりますので過度なストレスは避けるようにしましょう。
ストレス軽減のためにアルコールを摂取するという人もいるかもしれませんが、アルコールの飲み過ぎは血圧を高めるので逆効果です。
ストレスが溜まっているなと感じる前にストレスを発散するような行動をとることをおすすめします。
散歩に行く、友人と話す、趣味に取り組むなど、思い立ったときにストレスの対処行動が取れるように気分転換の方法をいくつかリストアップしておくと良いでしょう。
○脱水症状を起こさないよう水分補給を怠らない
高齢になると喉の乾きに気づきづらくなり、つい水分摂取を怠ってしまいがちです。
しかし、水分を摂取する量が減り体内の水分量が不足すると脱水症状になります。
その結果、全身の血液が濃縮して血圧が上がる危険性があります。
1日のうち定期的に水分補給をすることを習慣づけると良いでしょう。
夜間も汗をかき朝目覚めるときには体がすでに脱水状態になっていることもあります。
朝目覚めたときに水分を摂取することも忘れないようにしてください。
さらに、高齢者が脱水症状を防ぐためのポイントとして、季節を問わずに水分摂取を意識するようにしましょう。
夏の暑い季節なら意識をして水分を摂取しようとしますが、冬の寒い季節になると汗をかかないためどうしても水分をとる機会が少なくなってしまいます。
加えて喉も乾きにくくなり、気づいたら脱水になっていたという「隠れ脱水」になることもあるのです。
そのような状況にならないよう日頃から1日の水分量を十分摂取するよう意識して習慣化することをおすすめします。
○十分な睡眠時間を確保する
人により最適な睡眠時間は異なるものの十分な睡眠時間が取れていないと血圧がより高くなります。
とくに夜間いびきをかいたり、睡眠時無呼吸症候群と言われる症状が見られたりすると睡眠の質が低下します。
寝ている間も脳が起きている状態となるため交感神経が副交感神経より優位となり、それが夜間の血圧を高める原因になります。
○急な温度変化を避ける
血圧の急な変動を避けるために、室内の気温の変化や外気の気温差に注意をしましょう。
とくに冬の季節は、暖かく室温が保たれている居間からトイレや浴室に移動するときに大きな温度差が生じないようにするように、寒くなりがちなトイレや浴室は事前にヒーターで暖めておくなどの工夫が必要です。
入浴のときもお風呂の温度は高すぎず、ぬるめのお湯(40℃くらい)にし長湯をしないよう気をつけてください。
室内だけでなくそのときの気温も前日との気温差が大きい場合には、外出時の服装や外での過ごし方も身体に負担のないようにしましょう。
○急な動作を避けてゆっくり行動する
勢いよく立ち上がるなど急な動作も血圧の変動をきたしやすくなります。
なるべく大きな血圧の変動がないように日常生活動作の一つ一つを急がず慌てずにゆっくり行うようにしましょう。
とくに毎朝の起床時は、血圧の変動をきたしやすいためゆっくりと起き上がり、手足を伸ばしたり呼吸を整えたりしながら徐々に体を慣らすことがおすすめです。
まとめ
高齢者はその身体の生理的な機能の低下やこれまでの既往歴、生活習慣などから血圧の変動をきたしやすくなります。
さらに、高齢者が高血圧であり続けることで脳卒中や心筋梗塞などにかかるリスクが高くなることも知っておく必要があります。
普段から血圧の高い高齢者は、血圧がコントロールできるように生活習慣を見直す、治療や住空間を見直すなどの対策をとることが何より大切といえるでしょう。
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